祭りだ祭りだ　　　　　　　　　　　

今春、姫路の北の草深い山里に移り住んだ義弟から、秋祭りの招待があった。もうすっかり義弟は村の衆に成りきっていて「祭りだ祭りだ」と大張り切りだ。釣果を手みやげに、かみさんと二人招きに応じ、さんざ食って酔っぱらった。大アジが釣れていて、大切りタクワンを上回る立派な刺し身が膳に花を添えた。アジは、釣ったままを、はらわたも出さずに煮るのが最高にうまいからと言って、煮魚料理も注文した。　　　　

近くの藁屋根(わらやね)に一人住いのばぁさんもこの日招待を受けていた。義弟のかみさんの実母だ。食事の後ソファに移ると、隣に座ったばぁさんが私に問いかけた。

「にいさん、住んどるのは何処(どこ)？まちか田舎(いなか)か？」

「はい三木です。いなか」

「近くに店屋はありますか？」

「はい、少し」

「それなら街や。ここはなぁんもない」

「ないことない、牛だって道を歩いてます」

「 ？」

眠くなってウトウトする私に、ばぁさんがまた話しかけた。

「にいさん、しばらくここで横になったらどう」

「はい、ではちょっとここ（ヒザ）をお借りしますよ」と、

酔った勢いでばぁさんのヒザに手を置くと、ばぁさんビックリしてぴょこんと立ち上がった。

「これ！義兄さん、ばぁちゃんビックリさせんといて。ほれ見てごらん、腰がのびてもたやないの」と娘（義弟のかみさん）。

台所から「パパァ〜、アジが煮えましたよ」と、かみさんが言うのが聞こえたような気がするが、あるいは気のせいだったかもしれぬ。ビールと酒と焼酎がクルクル回って目が開かなかった。